i((ｱﾀｼ))という名で弾き語りをしている彩さんに出会ったのは、私が通っていたボーカル教室の先生が毎年秋に開催しているコンサート。そこでは元生徒、現役生徒が順に歌う。この秋で4回目の参加。
毎回、中高年の女性だらけの中で弾き語りをする若い男性が何人かいたが、今回はニューフェイスが登場した。
大人しくて目立たない感じの、
「若い」「オリジナル曲」の「弾き語りをする女性」
どのワードも、このコンサートではレアな人だった。
彩さんの歌うのを聴いた時、ささやくような歌い方をしていたので、
イマドキの歌い方をする人だな、
声が小さい人なのかな、
と思っていたら、サビでは結構な音量でよく通る声に変わったので少し驚いた。
声、大きかったんだ。
そのことを本人に伝えると、以前はずっと大きな声で歌っていたそうだ。
ビリー・アイリッシュの歌声を聴いてから、囁くような歌い方もあるなと思って、今の歌い方になった。
彩さんは子どもの時から歌うのが好きだった。
10歳からボーカルを習い始めた。
ギターを弾き始めたのは高校の時。
音楽の授業で弾いてから、ああ、こんな感じでいいんだと安心して始めたのだそう。
その頃から曲作りも始めた。
詩は以前から書いていた。
小学校で、自由ノートにドリルの復習など勉強のことを書くという宿題があった。これも国語だからと思い詩を書いていたら、5年生の時の担任が大袈裟なくらいに誉めてくれた。それがとても嬉しくて、もっと書くようになった。
「自分の世界を言葉で表現できることが楽しかったんだと思います。元々周りの同級生と比べて劣等感を感じたり、人が怖いみたいなのがあったんです。みんな違ってみんないいみたいなこと書いてたから、当たり前みたいなものにとらわれたくなかったのかなぁ」
と、振り返る。
歌が好きでギターも弾き始めて詩を書いていた彩さんがメロディを作るようになったのは、自然な流れだった。
もっと歌いたい、もっと上手くなりたい、もっと気持ちを伝えたい、自分をわかって欲しい。
高校1年の時、１年間、東京のシンガーソングライターコースのある養成所に通った。
この頃の彩さんは自分に自信がなく力を出しきれなかったことは今でも後悔しているが、無理を聞いてくれた親にはとても感謝しているそうだ。
高校を卒業して仕事をしていたある日、思い立って東京へ向かった。
路上ライブをするために。
三原での生活が嫌だったわけではない。
仕事は楽しかったし、職場にも不満はなかった。
ただ、ただ、人前で歌いたいという一心で、ギターを抱えてギュウギュウ詰めの山手線に乗って新宿に降り立った。
歌い始めてすぐに、帰りたい と思ったそうだ。
でも、せっかく来たんだからと2時間、歌い続けた。
一泊して翌日ゆっくり帰る予定が、そのまま逃げるように帰ってきた。
思ったように立ち止まってくれない新宿の路上ライブは、怖かった。
「もっとわぁーと人が寄ってきてくれるとものだとばかり思っていたから、そのギャップが怖かった（笑）」
でも、心温まる経験もした。
準備に手こずっているのをみかねて、路上ライブは初めてか？と言いながら慣れた手つきで手伝ってくれたおじちゃん。
新宿駅の路上ライブのYouTubeで見かけたことのある怖そうな印象の女の人も、そのおじちゃんと一緒に手伝ってくれた。
お笑い芸人目指している風な3人組の男の人、
母親に手を引かれて歩きながらじぃっとこっちを見て「歌上手いんだけど」と言ってくれた小さな男の子。
「自分の想いを今世の中に出さないでどうするの！？」という気持ちだけで突っ走った路上ライブ。
初めてで要領も分からなくて惨めになりながらも、とにかく歌っていたそうだ。
手伝ってくれたおじちゃんには、箱を置いておけば結構お金いれてくれるんだよと言われた。
その時は、お金をもらうことは嫌だったけれど、今となっては箱を準備しておけばよかったのかなと思う。
おじちゃんが名前の看板を止めるために渡してくれた透明な洗濯バサミは、今でも大切に持っている。
通りすがりの親切なおじさんは警戒しないといけないとも思ったけれど、それよりも助けてくれているんだという気持ちがありがたかった。
そして、歩きながら見てくれる小さな男の子の手を、前を向いて歩いて！って引っ張っていく見向きもしないお母さんという現実。
嬉しかったことも、残念だったこともすべてひっくるめて、とてもいい経験になったと笑って話してくれた。
この話を聞いた2日後の12月2日、大和町のクレオホールで開催される「だいわ音楽祭」で歌うとのこと。あまり地元で歌う機会がなかったので、これからはいろいろな場所で歌っていきたいそうだ。
歌うときアガることはないの？ と聞くと、それはないんだと答えた。
もし、怖いなと思ったとしても、あの新宿のことを思えば全然大丈夫ときっぱり言った。
彩さんの第一印象と、人に思いを上手く伝えられないという話から、引っ込み思案で大人しい人なんだろうと思っていた。
けれど、話を聞きながら
「え？ちょっと待って？」
と、何度言っただろうか。
人前で歌うのはアガらないと言うし、新宿で「突撃」としか言いようのない路上ライブを敢行したと言うし。
で、怖くて逃げ帰ってきて、でもその経験があるからもう怖いものは無いと言う。
この人と話していると、自分が無意識に作り出していた人物像がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。
「話すのが苦手」と「人前が苦手」ってイコールではなかった。
「話すのが苦手」だけど「歌が好き」だから「人前で歌おう」ということなのか、と衝撃を受けた。
人って話してみないとわからない、だから面白いんだけれど。
自分を上手く伝えられないからと歌を作り始めた彩さんも、今は相談もできるし悩みだって話せるようになった。
行動力はあるのにいつも不完全燃焼で終わってしまう原因もつかめた。
それでも人に話すには躊躇してしまう胸の奥の方にあるものは、やっぱり歌にする。
ただ、以前と違うのは、ここに自分の居場所があったと思えるようになったこと。
ずっと居場所を求めていた自分が、音楽に居場所をもらったように、自分の創り出す音楽も誰かの居場所になれたらと。
そんな想いを込めながら、新しい曲作りをしている。
もちろん、以前の曲も大切な軌跡だから、言葉を変えながら歌い続けようと思っているそうだ。
今はオリジナル曲以外に、あいみょんの曲などを歌っている。
頭の中には、いくつかオリジナル曲のタネがあるそうだ。
大切に育てて花が咲き、彼女の口から花びらがこぼれるように歌になる日を楽しみに待っている。
i((ｱﾀｼ)) さん 読み方は「あたし」@ilovei.1014/
i((ｱﾀｼ))さんの歌は、
FMみはら「イブニングスペシャル」という番組の
チャレンジ三原『レッツシングクリスマス』（17：05～）のコーナー
で聞くことができます。
放送日時は
2023年12月18日（月）17時〜
曲が流れる時間は17時5分頃から
番組ホームページは
あなたの歌で三原に元気を！Let’s sing christmas｜FOR LIFE RADIO エフエムみはら 87.4MHz
