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鯛に手で触れずに捌くお祭り? 久井稲荷神社「御当(おとう)」

久井稲荷神社で毎年10月に開かれる久井の御当(おとう)は、捧げられた鯛を金箸と包丁を使って『亀の入れ首』と『鶴の羽替え落とし』に形を作る全国的にも類を見ない例祭です。
その様子は慶長3(1598)年の『稲荷御当之覺(おぼえ)』にも書かれており、古式をよく伝える貴重な祭事として国の選択無形民俗文化財になっています。

御当という名前は、この土地にある御当田(おとうだ)という田んぼで取れた新米を、それを守る御当主(おとうぬし)が甘酒にして神社に奉納したことからきているのだとか。
御当主の当番は25年に一度。甘酒や鯛を奉納したあと、見子の座、東座、西座と言われる3つの座を開き、清酒、だいこなます、鯛の刺身が振舞われます。

金箸と包丁だけで鯛を捌く

御当で包丁方(ほうちょうがた)を33年務める大ベテランの玉浦清司さん。包丁方の仕事は鯛を捌くことで「奉納された鯛だからね、手で触らないように金箸と、包丁だけを使って形を作るんですよ。鯛のエラに金箸を刺して、尻尾からぐぐぐいっと3枚におろす。さらに3つに断つんだけど、骨 を切るから手がしびれてしまってねえ」と、見せてくれたのは使いこまれた金箸と包丁。大きな鯛を捌くのに相応しい大きさの金箸と包丁ですが、金箸が折れたり、包丁の刃がかけてしまうこともある のだとか。

2つある形のうち、玉浦さんは亀の入れ首の担当で「名前はついているけど、どんな形 か資料が残ってないので、先人がしてきたものをずっと真似しているんですよ。自分でも、こうし たらより綺麗か?亀の形に見えるか?と毎年少しずつ工夫をしています。」と話されました。

据え方の仕事

そんな包丁方とともに大事なのが、”据え方(すえかた)”という役。
まな板に載せた鯛を包丁方まで渡す役で、運び手の息がかからないように、常に鯛を目線より上に持 ち上げたまま運びます。

鯛を載せたまな板を持ち上げ、まるで鯛が生きているように揺らしながら下げる。この動作を『鯛 をひねる』と言い『包丁方に渡すまでに鯛を7回ひねるんよ。』と、話す玉浦さん。力のいる仕事なので、腰痛の親に代わって、中学生の息子が手伝ったこともあったとか。

久井稲生神社「御当」

祭りは一人ではできないから

実は、玉浦さんは西座の御当主でもあり、当初は包丁方をするつもりはなかったそうです。しかし、包丁方の継ぎ手がいない中、「包丁方がおらんと祭りにならんし、誰かがしないと祭りが残らないからね。」と引き受けることにしたのだとか。「祭りは一人ではできないからね。」

他にも座頭、触頭、当番主に据え方、餅切り役、給仕人と、様々な人の手を経て行われる久井の御当。
玉浦さんは現在も若手をスカウトしたり、育てたりと、郷土の祭りを残していくために奮闘されてい ます。

「座敷では、清酒、だいこなます、鯛の刺身なども振る舞われます。一般の方も参加できるので、体験されたい方はお越しください。」とにっこり話されました。

久井稲生神社「御当」

広報みはら2021年10月号「未来へつなぐ大切な祭」掲載

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西本ちか

西本ちか

コツコツ、マイペース

山口県岩国市出身。2005年に三原の旦那さんとこに嫁いで普段は着物屋の嫁をしております。好きなものは着物、漫画。最近の趣味は図書館で本の装丁を見ること、工芸に触れること

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